スマホがあれば読書しなくていい? そんなわけ無いでしょ

『プルーストとイカ』を読んだ

先日、『プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?』を読みました。

やや読みにくいところもありましたが、非常におもしろい内容の本でした。そして、教員である私にとっては、多くの学びがありました。

大雑把に本の構成をまとめると、次のようになります。

  1. もともと文字などを持っていなかった人類が、どのように文字を獲得していったか。
  2. 文字を獲得していく過程で人類の脳は、本来持たない「読字」「書字」の機能を脳の中に作り上げていった。
  3. 子どもは、文字を読むようになる成長過程で、人類がたどったように自分の脳を発達させていく。
  4. ディスレクシアの研究を通して脳の機能と症状の関係が明らかになってきた。
  5. デジタル時代になり、人類の脳はどうなっていくのか?

文字を読む能力は自然に身についたわけじゃない

当たり前といえば当たり前ですが、動物の一種である人間に、はじめから文字を読む能力なんて備わっていませんでした。この点について、解説の中では次のように書かれています。

もともと文字を読むという脳の回路を備えていなかった私たちの祖先は、既存の機能をリサイクルすることによって、文字を読めるようになっていった。

そして、そのことによって、人類の脳はその機能を高めていきました。ある領域が本来の機能に加えさらにできることを増やし、より高機能になった領域同士が接続することにより、文字を獲得する前にはもたなかった能力を伸ばしていったのです。

文字がより複雑に、より洗練されるにつれて、脳の働きも複雑で、洗練されたものへと変化していく。

子どもは、成長し発達していく中で、人類の歴史をたどる

人類が、文字を生み出し、それをより高度にしていく中で、読字、書字のための脳の機能も発達してきました。そして、多くの発達の過程と同様に、子どもは、読字、書字について学ぶ中で、人類の発達の過程を、自身の発達の中でたどっていくことになります。

人類が2000年かけた発達レベルに、今日の幼い子どもたちはわずか2000日(5歳くらい)で達するように求められる。

スマホで検索できるようになれば読書なんてしなくてもいいのか?

今は、小学校の中学年くらいでも、簡単にスマホの検索機能を使えたりします。欲しい情報に簡単にたどり着くことができるのです。そういう世の中にいると、本を読まずにスマホだけ扱っていても問題ないんじゃないか? って思うような人も出てきます。

うちの1歳にならない孫娘も、どういうわけかスマートホンが大好きで、母親がスマホを扱っていると、近寄って自分も触ろうとします。これから成長していく中で、スマートホンを与えれば、おそらく低年齢のうちにスマートホンをそこそこに使えるようになるだろうと考えられます。

しかし、だからといってデジタル機器の操作体験が、読書体験にかわりになるわけではありません。情報を得るという点について言うと、書籍をあたるよりもデジタル情報にあたる方が、速くて大量の情報を獲得できるでしょう。しかし、だから書籍を読まなくてよいということにはなりません。

私が、上記の本を読んでもっとも強い印象をうけたのは、読むという行為が子どもの脳を発達させるという事実なのです。

デジタル機器は、速くて大量の情報を簡単に手に入れられるというのは、間違いありません。けれど、デジタル機器ばかりを扱って本を読まなくなれば、読書によって促されるであろう脳の発達を阻害することになるようなのです。

脳のどの領域が読書によってその機能を拡大するのか? 領域と領域がどうやって接続されるのか? については、上記の本を読んで頂くほうが、私の拙い解説を読むよりもいいと考えます。ただ、読書をないがしろにすると本来得られたであろう子どもの脳の成長が阻害される危険性は強調したいと考えています。

筆者は、文字が読めない時分から、親が膝の上で読み聞かせをすることの価値をしつこいくらいに強調しています。それが、脳の発達を促すことを研究の成果として学んだからです。

小さいお子さんをもつ大人の皆さん、子どもにスマホを与えるなとはいいません。ただ、スマホは書籍の代わりにはなりません。また、文字が読めない幼児であっても読み聞かせには多大な効果があります。楽だからと行って、スマホを子守の道具にはしないでください。

おまけ 小学生のお子様を育てている皆様へ

私たち教員の多くは、子どもたちに宿題として「音読」を出しています。私は、土日を除きほぼ毎日課題として出します。授業の中でも、音読をできるだけ取り入れるようにしています。1年生だけではなく6年生であってもです。それだけ音読には価値があるのです。

しかしながら、音読カードの保護者のサインを見ると、本当にこの子は音読をやって来たのだろうか? 保護者の方が適当に印をつけているんじゃないか? と思うことがあります。それなりに文を読めるのだから、音読なんてやってもやらなくてもたいしてかわりないと思っている家庭があるように感じます。

上記の書籍には「流暢に読める」レベルのことについて書かれています。「流暢に読めるようになるか否か」というのは、ただ慣れの問題ではありません。流暢に読めるようになる過程で、脳の機能が発達していくのです。スラスラ読めないのは、慣れていないからではなく、脳の機能が十分に育っていないからなのです。

6年生であってもスラスラ音読できない子がたくさんいます。その子達は他の学習も苦手です。私は、読解力がないから、資料や問題文を読み間違いして勉強が苦手になるのかと思っていました。おそらくそれもあるでしょう。しかし、読むという経験の少なさが、脳の発達を十分に促してこなかったことも関係しているのではないか? と考えるようになりました。

ぜひぜひ、音読をなめないようにしてください。

プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか? | メアリアン ...

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